福岡高等裁判所 昭和32年(う)1474号 判決
しかし刑法第二百十一条にいわゆる業務とは、各人が社会生活上の地位に基づいて継続して行う事務にして、人の生命身体に対し危害を及ぼす虞のあるものを指称するのであつて、主たる業務はもちろん、これを準備又は補助する附随事務をも含むものと解するを相当とする。思うに、人の生命身体に対する危険を包含する行為を継続すべき社会的地位にある者は、常にかかる危険の発生を未然に妨止すべき特別の注意義務あることは当然であつて、それが主たる業務たると、附随的事務たるとによつて何等その間に程度の差を設くべき理由がないからである。
本件事案をみるに、被告人は、原判示渡辺計理事務所の税理士補助事務員として勤務し、税理士事務の補助を本業とする者であるが軽自動二輪車をその運転の免許を受けて、通勤並びに業務遂行上自己の担当地区を巡回する用途に使用し、常に自らこれを操縦していたものであることは、原判決挙示の証拠によりこれを認めるに十分であつて、右軽自動二輪車を操縦することは、被告人の社会上の地位に基づいて継続的に従事する附随的事務であることは明らかであるが故に、前記法条にいわゆる業務に該当するものというべきである。ところで所論のごとく被告人が昭和三十一年十二月二十九日午後五時頃勤務を終えて、途中知人の家に立ち寄り、知人等と酒を酌み交しての帰途、翌三十日午前一時三十分頃本件事故を惹起したものであることは原判示証拠によつて認められるけれども、右のように途中知人の家に立ち寄り相当の時間を費やしても勤務の帰途たることには変りはなく、これがために右運転行為のもつ業務たる性質に何等消長を来すべきものでないことは明らかであるから、原判決が原判示事実を認定して、これに対し刑法第二百十一条を適用処断したことはまことに正当であつて、原判決には所論のような事実認定を誤りもしくは法令の適用を誤つた違法の点は存しない。論旨は理由がない。
(裁判長裁判官 高原太郎 裁判官 厚地政信 裁判官 中島武雄)